「健康トピックス」

北國新聞 ”健康ノート”、”丈夫がいいね”、”健康よもやま話”
金沢有松病院分掲載中

がん検診の有効性

「先生、ガン検診は効果がないらしいですね。新聞に書いてあったよ」。先日、毎年書かさず金沢市のすこやか個別検診を受診しているAさんが新聞を持って来院した。

本年三月、厚生省班研究として「ガン検診の有効性評価に関する研究報告書」が発表された。その内容が報道され、検診に対する不信感を国民に与えてる。Aさんが携えた新聞には報告書の記事が載っていた。

この研究班の報告書の内容は、六つのガン検診(胃ガン、大腸ガン、子宮頚ガン、子宮体ガン、乳ガン、肺ガン)に関する国内外の膨大な量の学術文献を読み、それらに批判的にコメントを加え、個々のガン検診に関する現状での結論と改善策をまとめたものである。
このうち胃ガン、大腸ガン、子宮頚ガンについては、有効性が証明ないしは示唆されている。他のガン検診についても、科学的に有効性を証明し得るだけの研究成果が十分に得られていないというものであり、決して現在のガン検診があてにならないと結論しているわけではない。

研究班総括委員長の久道茂東北大医学部長も「今回の報告書はガン検診に疑問ありという結論になっていない。その点を医療関係者および検診関係者、国民に広く認識してもらうことであり、ガン検診のさらなる普及とガン撲滅を目指したものと考える。

しかしながら、ガン検診の評価とその公開には一般の人に理解してもらううえで難しい問題が多々ある。
ガンといっても千差万別であり、例えば早期ガンであっても各臓器ガンや、その病理組織によっては予後を示す五年生存率は全く違うし、人種、国別によって各臓器のガン発生率は大きく異なる。しかもガン検診の有無による有意差や方法の比較を厳密に評価するためには数十年の観察期間を要し、費用効果や人権問題も絡むため並大抵ではない。

報告書の対象となった老人保健事業による五つのガン検診(子宮ガンを一ガンとする)の受診者は全国で年間に約二千三百万人にのぼるが、同じ検診であっても県市町村によっては、その診断の精度はまちまちである。
多くは精度管理が十分でなく精神的に精度管理している地域から見れば、この報告書の評価は平均的なデータであり、その内容に不満は残るだろう。私自身が医学的知識を持って読めば三百ページにも及ぶ今回の報告書は十分理解できるが、一般の人にガン検診に対する多少の不信感を与える可能性は否めない。
報告書の結論のみで判断すれば、六つのガン検診を同列比較する結果、一部のガンに有効性の”疑問”や、”効果なし”といった誤解を生じさせることになる。医学の評価は生命と人権の問題を伴うだけに、公開することに反対はしないが、より慎重な配慮を求めたい。

先のAさんとの会話に戻そう。「あなたの身体のどこかに、ガンができたとしましょう。しかし、現在のいかなる最新診断機器を持ってきても発見不可能な期間があります。その期間が短いタイプから、数年間も顔を見せずゆっくり成長するタイプまでがんは多種多様であり、そのガンが少しでも顔を出し、しかも症状のでないうちに発見するのが検診の目的です」。私はこんな説明をしながら、金沢市のすこやか個別検診についてもAさんの理解を求めた。

金沢市のすこやか個別検診は大学教授を中心に市内のすべての病院の専門医や開業医らが市民の検診で”見逃し”や”読み過ぎ”がないよう二重、三重にチェックしている。このため検診に携わる医師らは日中の仕事の後、夜遅くまで集まり、ほとんどボランティアで頑張っている。特に肺ガン、胃ガンの検診方式や精度の高さは全国から注目され、トップレベルにあると私は考えている。

ガンは死亡原因の一位を占めている。今回の報道が全国の検診関係者や医療関係者に改善と奮起を促し、ガン検診の精度を高め、その結果、さらなる検診の普及とガン死亡の低下につながれば、この報告書の価値も高まるのだが。何よりも一人ひとりが自分の健康に関心を持ち、一人でも多くの人が毎年検診を必ず受けて、早期にガンを発見、治療することが大事であり、そのことによって初めて検診の有効性が高められていくのである。